『日本』平成30年7月号

教職員の働き方改革と部活動のゆくえ

橋本秀雄/元公立中学校長

見直しを迫られる部活動

 部活動と聞くと中学や高校時代が懐かしく思い出され、あるいは自身の進路決定に影響したことを認める人も多いことと思う。今でも中学生は卒業文集のテーマに部活動を取り上げることが多い。人生で初めて自分の意思で所属を選び、顧問の指導のもと上級生や下級生と共に練習に励むなど、濃密な時間を過ごす。その体験は心に深く刻まれ、生徒の人間形成にとって非常に役立っている。

 これまで多くの学校では、部活動を全員加入制とし、教師も、管理職を除いた全員が指導に当たってきた。学校部活と呼ばれるこのシステムは日本独自のもので、昭和五十四年に出た『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(エズラ・ヴォーゲル著)に、日本の発展を支えた集団の力を育てていると紹介された。

 現行の中学校学習指導要領にも「(部活動は)スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養(かんよう)等、学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものである」と高く評価している。

 ところが現在進行している「教職員の働き方改革」で、教職員の長時間勤務の原因として部活動(主に運動系)が焦点となり、将来、地域で担えるよう環境を整えることを目指すとされている。

部活動の抱えてきた矛盾

 部活動は生徒にとって学校生活における大きな関心事であるが、学校教育としては明確な位置づけがなかった。学校教育の内容を定めている学習指導要領で、部活動の指導について言及されたのはごく最近で、平成二十年の改訂版が初めてである。その「総則」に「(部活動については)学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」と記載され、学校教育の一部であると認められたのである。しかし、それでも部活動は教育課程外の活動であって、教科・道徳・特別活動などのように児童生徒全員に指導しなければならない内容ではない。

 また部活動のもつ矛盾が表面化したのは昭和四十六年に成立した「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教職員の給与等に関する特別措置法)で、教員にはその任務の特殊性から教職調整額を一律(給与の四%)支給し、時間外勤務に対する割増賃金の支給はしないとされたことだ。時間外勤務を命ずることができるのは、①生徒実習②学校行事③職員会議④非常災害等 ――の四つの業務に限定された。

 この法律によれば、校長は部活動を時間外に実施するよう命ずることができないことになる。本年二月、文部科学省の「働き方改革」に関する通知文で、部活動は校内掃除等と同様に〝学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務〟と改めて確認をされている。従って、教師が勤務時間外に指導する部活動は、いわばボランティアで行うことになる。

 給特法が成立した当時、保護者や学校の中には部活動が成立しなくなると危機感を持ち、地域の社会人をコーチに依頼し、学校部活の社会体育化を模索したところがあった。その方式は一定の成果もあり、かなりの地域で実施されるようになっている。しかし、生徒の管理と生活指導は教師に求められ、対外試合の監督は教師しか認められないこともあって、時間外勤務が解消したわけではなかった。

「働き方改革」と部活動のゆくえ

 学校の始業・終業時刻は各校で定められているが、教師の仕事は際限のないところがあり、実際の勤務時間は教師一人一人に任されてきた。例えば提出物の点検や成績処理などのように、日々期限に迫られる仕事も多く、夜間などの自主的な時間外勤務でこなしてきている。それに加えて中学と高校では土、日曜日の部活動もあり、以前から教員の長時間勤務は問題になっていた。

 文部科学省は現場の実態を把握するため、平成二十八年十月から十一月に全国の公立小中学校四百校の教員を対象に「教員勤務実態調査」を行った。すると教諭の平日の勤務時間の平均は小学校が十一時間十五分で十年前より四十三分、中学校が十一時間三十二分で前回より三十二分、いずれも増加したことが分かった。また、土日の勤務時間は小学校が一時間七分で前回より四十九分の増加、中学校は三時間二十二分と前回より一時間四十九分と大幅に増加しており、小学校では三三・五%、中学では五七・〇%の教諭が週に六十時間以上勤務し、二十時間以上残業をしていた。したがって、中学では六割近い教諭が国の示す過労死ラインを超えていることが明らかになったのである。

 文部科学省はこの結果を受けて平成二十九年十二月、「学校における働き方改革に関する緊急対策」を発表し、本年二月に全国の都道府県教育委員会へ緊急の対策を取って、学校の業務改善と勤務時間の管理をするように通達を出した。

 特に中学と高校では部活動が超過勤務の多くを占めていることから、スポーツ庁が本年三月に「運動部活の在り方に関する総合的なガイドライン」を発表し、やはり全国の都道府県教育委員会などへ「ガイドラインの策定」と「運動部活動の適切な運営」の徹底を依頼している。

 そこで示された対策は、①運営体制の見直し(部の数、外部指導員の導入など)②合理的かつ効率的・効果的な活動推進(科学的な練習方法等)③休養日の設定(週当たり二日以上。部活は、平日では二時間以内、休業日で三時間以内)④スポーツ環境の整備(競技志向ではない多様なニーズに沿うよう、地域の連携を進める)⑤参加する大会の見直し(大会の統廃合、参加する大会の精査)――であるが、最後に「長期的には、従来の学校単位での活動から一定規模の地域単位での活動も視野に入れた体制の構築」を求めている。

より良い部活動を求めて

 つまり部活動の抱える矛盾を解決するために、将来、学校から切り離すことが示されたのである。しかし、昭和五十年前後から各地で試行されてきた社会体育化の試みが万全ではないことを、よく吟味してみる必要がある。まず生徒を受け入れるのに十分なクラブがあるのは一部の大都会であって、地方には期待ができない。先のガイドラインが勧める外部の部活動指導員(非常勤職員)も、まず若い人は無理であって、高齢者から探すことになる。それもこれまでのような技術指導ならともかく、子供達の心も含めて指導をする意欲と力を要求されたら、応募者も限られてこよう。

 学校部活であれば、普段から生徒の生活を見ている教師が指導をするので、生徒指導上も好ましいし、保護者も安心であろう。教師にとっても生徒と部活動を創り上げることは楽しいことであり、教師として力量を高める機会でもある。何より今日の子供達にとって心身を鍛えるのに最適で、他に代えがたい場である。正に学習指導要領の目指す〝生きる力〟を育てる格好の場なのである。

 このように学校部活の形態はいろいろな面で効率的であり、今後も矛盾を抱えながら続く可能性の方が高い。当面はガイドラインが示す部活動の練習・休息の在り方などを見直すとして、学校部活を真に生かすためには、給特法の改正や教員定数の改善なども含めた検討が必要であろう。