米と日本人

葛城奈海ジャーナリスト・俳優・「防人と歩む会」会長・予備三等陸曹

言わずと知れた、日本人の主食である米。みなさん は、田植えや稲刈りを経験したことがありますか?

私は武道場の子供たちと、ほぼ毎年行っていますが、 五本の指の間からにゅるりと入ってくる田んぼの泥の 感触は独特です。初めて田んぼに足を踏み入れる子供 の中には、キャアキャアと大騒ぎする子も少なくあり ません。泥に足をとられ、田んぼの中での移動は容易 ではありませんし、腰をかがめて作業するので、時間 が経つにつれて体にも負担がかかってきます。機械化 が進んだ今では、そうした作業をする農家はほとんど なくなりましたが、長い間、日本人はこのようにして 稲作を行ってきました。今でも、機械では作業しづら い田んぼの端や角などは、手で植えています。

天皇陛下と稲作

この大変な農作業を、小さな面積とはいえ、天皇陛下も皇居でされています。『日本書紀』によれば、天 孫ニニギノミコトが高天原から天下られる際に、天照 大神から賜った三大神勅 (しんちょく )のひとつ「斎庭稲穂(ゆにわのいなほ)の神勅」 によって、稲作は日本にもたらされました。「高天原で育てている神聖な稲穂を我が子(直系の代々の天皇) に与えるので、これを地上で育てて主食とし、国民を 養いなさい」という神勅を守り、天皇陛下は田植えや 稲刈りをされているのです。

今年の五月一日、令和の御代が始まりました。十一 月には大嘗祭(だいじょうさい) が執り行われます。大嘗祭とは、天皇 陛下が即位後初めて行う新嘗祭(にいなめさい) のことで、その年に収 穫された米、粟 (あわ) やお酒を神々に供え、天皇陛下自らも これを食し、収穫に感謝する宮中のお祭です。神とと もに新穀 (しんこく) を食すのには、新穀に宿る神 霊(しんれい)を体内に取り 入れるという意味があります。

この大嘗祭に奉納する米を作る田んぼを、斎田(さいでん) と言います。斎田は、「点 定(てんてい) の儀」によって全国から二ヵ 所が選ばれます。薄く加工したアオウミガメの甲羅を 宮中で焼き、ヒビ割れ具合を見る「亀卜 (きぼく) 」によって、 東日本から悠紀田(ゆきでん) を、西日本から主基田(すきでん)を設ける都道 府県(悠紀(ゆき)地方、主基(すき) 地方)を決め、その後、両地方 からそれぞれ斎田が選ばれるのです。今回は五月十三 日に行われた「斎田点定の儀」によって、栃木県、京 都府がそれぞ れ選ばれまし た。斎田の所 有者は「大田主(おおたぬし) 」と呼ばれ、 全国の代表と して稲を育 て、収穫し、 奉納します。 責任重大です が、同時に大 変名誉ある役 割です。

昨年六月、 大正の悠紀田 であった愛知県岡崎市の「六 ツ 美(むつみ) 悠紀斎田お田植まつり」を訪ねま した。不浄をよけるために組まれた竹矢来(たけやらい)で囲まれた 田に、お揃いの菅笠(すげがさ)  、藍色の着物に赤襷(あかだすき) 姿の早 さおとめ 乙女 たちが並び、苗を植えていきます。畔(あぜ)では、おおらか な太鼓の拍子に合わせて、「今日の良い日のお田植え はじめ~」と、地元小学生をはじめ多くの人が田植え 歌を歌い、踊っています。天皇一世一代限りのおめで たい行事ということで、大正四年当時(明治天皇と 昭憲皇太后(しょうけんこうたい ごう)が崩御され、喪が明けてからの即位だっ たため元年ではありませんでした)は、三日間で七万 人もが見物に訪れたそうです。これを誇りに、百年以 上経った今も、六ツ美では地域を挙げてお祭りを継承 しています。

日本の国柄を育んだ稲作

現代のように便利な農機具がなかった時代、ぬかる む泥に足をとられながら腰をかがめて延々と行う田植 えは重労働でした。ですが、こうして太鼓の拍子に合 わせ、皆で体の動きと心をひとつにして営んだ作業は、 地域共同体の絆を育んだに違いありません。その絆は、 ひとたび災害が起きれば、共助という形でも活かされ たことでしょう。

稲作は、日本人に主食をもたらすと同時に、和を尊ぶ日本の国柄を形作ったのです。

新元号の「令和」は、初めての国書からの引用、し かもそれが、最古の歌集にして、作者が天皇から庶民、 防人とあらゆる階層におよぶ『万葉集』でした。これ までになく日本の国柄を表すものになったことを、私 は心からうれしく思います。それぞれの人生の中で一 度か二度、立ち会えるか、立ち会えないかという御代 替わりは、日本の文化を見つめなおす、またとない機 会です。どうぞ皆さんも、秋にかけて行われる一連の お祭に注目してください。それと同時に、日々の食事 の際には、そんな神代から繋がる歴史の一環として目 の前のご飯をおいしく頂いているということにも思い を馳せてみてくださいね。

最後に、私が武道場の子供たちと食事をする際に唱 える和歌(神道の「食前感謝」と「食後感謝」の言葉) をご紹介します(本居宣長の歌)。

たなつもの百(もも) の木草(きぐさ)も天照らす
日の大神の恵み得てこそ「いただきます」
朝宵にもの食ふごとに豊受の
神の恵みを思へ世の人「ごちそうさまでした」