最近の冷え込む日韓関係

宇山 博/大阪国際大学名誉教授
はじめに

最近の日韓関係は「戦後最悪」と言われている。

日本と韓国は隣国に位置し、歴史的・文化的関係が深くて長い関係にあった。しかし、近代に入り、一九一〇年(明治四十三)の「日韓併合」によって朝鮮は日本の統治を受けることになった。そして一九四五年(昭和二十)八月、日本の敗戦によって日本の支配から解放された。一九四八年に独立したが、一九五〇年から五三年までの朝鮮戦争によって、南には韓国、北には北朝鮮と分断され冷戦構造が現在まで続いている。

日本とは一九六五年(昭和四十)に日韓基本条約、請求権協定を締結し、日韓の国交正常化が樹立された。それ以降、両国間にはさまざま緊張関係があった。しかし最近の主な対立点は、慰安婦問題、竹島(韓国名:独島)領土問題、日本大使館、釜山総領事館前の慰安婦に関連した少女像設置問題、元徴用工賠償問題などが挙げられる。

こうした状況の中で、本年(令和元、二〇一九年)七月に日本政府は輸出管理の厳格化を発表した。韓国を輸出管理優遇対象国(ホワイト国)から除外し「非ホワイト国」に指定した。その具体的な対象品目としては、①レジスト(感光材)②フッ化ポリイミド③フッ化水素の三品目を指定した。日本政府は今回の措置の背景として、韓国側へは通商当局との話し合いを三回も要請したが無視されてきたことと、単なる安全保障上の観点からと説明した。

一方、韓国側はこの措置を韓国に対する経済的報復として、即座に猛反発し日本に強く抗議した。この三品目は半導体製造の必須品目であり、韓国の主要輸出産業の一つである半導体産業に重大な影響を及ぼす恐れの可能性が大きいと予想されたので、韓国も強い行動に出たものと思われる。その後、韓国も対抗措置として同年八月に日本を輸出管理の優遇対象国から外した。この間、韓国政府は青瓦台(せいがだい)(大統領府)の金国家安保室第二室長の急遽米国派遣、康(かん)外務部(部は省にあたる)長官のポンペオ米国務長官への電話で、「自国の正当性」を主張した。しかし同国務長官からは「懸念と失望」の回答であった。これはある意味でハーグ密使事件(一九〇七年、オランダ・ハーグでの第二回万国平和会議に朝鮮高宗が密使派遣)を想起させるものでもある。

これら両国の一連の対抗した経済措置から発展して、国家にとって最優先課題である安全保障に深く関与するGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の破棄を日本側に一方的に通告してきたのである。なお同協定は朴前大統領政権時代に締結されたものであるため、文政権にとっては消滅させたい協定でもある。また同政権はツートラック政策(安全保障と歴史認識とは別個に取扱う)を標ぼうしていたのにもかかわらず強行した点は問題である。

こうした動きが文政権発足以降、短期間に引き起こされた上に、米国にもその余波を及ぼしたことは、過去の日韓緊張問題とは次元が異なり、重視すべきである。

日韓関係の動きの推移

最近の主な日韓関係の出来事のおさらいのために推移をみると、〈表1〉のとおりである。

日韓関係に関する主な出来事〈表1〉

2015年12月 慰安婦問題に関する日韓合意。同問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認
2016年11月 日韓GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)を締結
2017年5月 文在寅(ムン・ジェイン)大統領政権誕生
2018年10月 元徴用工訴訟で韓国大法院が日本に賠償を命じる判決
韓国も輸出管理の優遇対象から日本を除外する方針発表
済州島国際観艦式で海上自衛艦の旭日旗掲揚を拒否。日本は自衛艦派遣を中止
2018年11月 韓国政府が慰安婦の支援財団「和解・癒し財団」を一方的に解散決定
2018年12月 韓国軍艦が自衛隊機に火器管制レーダーを照射したと日本側が抗議
2019年2月 文喜相韓国国会議長は慰安婦問題で天皇に謝罪要求
2019年4月 韓国による福島産水産物などの輸入禁止措置を容認するWTOの判決
2019年7月 日本政府が対韓輸出管理の厳格化措置を発表
2019年8月 日本が輸出管理の「優遇対象国」から韓国を除外
韓国が日本産の一部加工食品や農産物などの放射線物質検査の強化を発表
韓国政府が日韓GSOMIAの破棄決定
2019年9月 東京パラリンピックメダルのデザインは旭日旗を連想させるとの批判
IAEA(国際原子力機関)で福島原子力発電の処理水の処理方法に批判

二〇一五年十二月、慰安婦問題について日韓両政府は「最終的かつ不可逆的な解決」で合意した。二〇一六年十一月にはGSOMIAを締結した。二〇一七年五月、文在寅大統領が誕生した。二〇一八年十月、韓国大法院(最高裁)が元徴用工賠償問題で日本企業に賠償を命じる判決を出した。同年十月、済州島の国際観艦式で海上自衛隊の自衛艦の旭日旗の掲揚を拒否され、日本は派遣を中止した。同年十一月、韓国政府は慰安婦支援のための「和解・癒し」財団を一方的に解散させた。

同年十二月、海上自衛隊機に韓国軍艦が火器管制レーダーを照射したと日本政府が抗議した。二〇一九年二月、文韓国国会議長が天皇に対して慰安婦問題で謝罪を要求した。同議長は以前、日韓議員連盟の韓国側の会長を歴任した人で「日本通」と呼ばれていた人物でもあるにもかかわらず、このような発言したことには大変驚かされた。二〇一九年四月、WTO(世界貿易機関)は福島県産の農水産物の輸入禁止する措置を容認した。二〇一九年八月、韓国も輸出管理の優遇対象国から日本を除外した。同月韓国が日本産の一部加工食品や農産物などの放射性物質の検査を強化すると発表する。同年八月、韓国政府がGSOMIAの破棄を一方的に通告した。同年九月、東京パラリンピックのメダルが旭日旗を連想させると批判した。同年同月、IAEA(国際原子力機関)において福島原子力発電所の処理水の処理方法で衝突した。

このように日本政府の輸出管理の厳格化以降、韓国政府は報復措置と思われる行動を継続したのである。

対立を引き起こす要因

両国間での対立を引き起こした要因を韓国、日本とそれぞれ分けて指摘してみる。

韓国としては、文政権の登場が最大の元凶である。同政権は市民団体、若年層を中心とした「ロウソクデモ」によって誕生したため、支持者の意向を無視できないポピュリズムの要素を持っている。過去十年間続いた保守政権から革新(進歩)政権に交代した。同政権の特徴は、学生運動圏の出身者が重用され政権樹立初期には青瓦台(大統領府)の主要ポストの約三〇%を占める勢いであった。「積弊清算」のスローガンで特権階層に打撃を与えることを目標としていた。これはある意味では保守派を潰すことであった。大統領個人は「頑固な性格」や「一人飯」と呼ばれ、限定した人だけと会っていると批判的に見られている。また彼は両親が北朝鮮出身者で、韓国では史上初の北側出身の大統領と言われ、革新系大統領であるが、北朝鮮には独特の感情を持っていることは否定できない。

経済政策では「所得主導成長」戦略と呼ばれ、「生産」より「分配」を重視する成長戦略であった。実際的には最低賃金を引き上げることにあり、二〇一八年には前年比一六・四%増の大幅な上昇率であった。その影響は大企業よりかえって中小企業、零細企業の経営に打撃を与えた。特に「サービス業」にその影響が直接及ぼした。その反動で翌年には九%台の一桁台の伸び率にとどまった。また韓国経済の喫緊の課題である雇用も、公共部門で当初八十万人増加させることを見込んでいたが完全に期待はずれであった。若年層の雇用増加も同様の結果(二〇一八年失業率は三・七%で前年と同様。若年層は一〇%以上)であり、大統領の支持基盤である若年層は不満を持ち支持率も当選直後の八〇%から五〇%を切る程度まで急落した。国内景気も半導体不況、米中貿易摩擦による世界経済鈍化などによって海外依存度(輸出依存度二〇一八年四〇数%)の高い韓国経済は、二〇一八年にはGDPは二%後半の低い成長を記録するにとどまった。二〇一九年も同程度の成長と予想されている。大統領任期五年の折返し点を過ぎる現在において経済的成果は全くの期待はずれであった。

外交面では、革新政権であるゆえに「親北朝鮮的」な立場を鮮明にしている。史上初の米朝会談開催にはこの政権も積極的に協力したが、それ以降の進捗状況は芳しくなく行き詰まっている。また「人権大統領」と呼ばれている文大統領が世界最悪の人権蹂躙国家である北朝鮮の金正恩労働党委員長と積極的に交渉していることは大きな矛盾でもある。政治的には朴前大統領らの前政権に関する裁判ぐらいである。要するに経済不振、対北朝鮮政策の停滞、「反日」勢力の存在などが、国民の期待と成果のギャップを生み、ストレスが急速に拡大していっているのが現状と言える。この局面を打開するために、今回の日本からの厳格化措置が大変有効に利用されたのである。

韓国経済は貿易依存度が高いので、〈表2〉から日本との貿易関係から見てみる。二〇一八年の韓国の総輸出の対中輸出は二六%を占め第一位で、日本は二〇〇〇年の一一・九%から第三位の五%と半分以下の割合に急速に低下傾向を示している。輸入でも同様に一九・八%から一〇・二%にその割合を縮小している。貿易構造でもかつてのような垂直貿易から、両国の首位の輸出品目が半導体、半導体関連機器・部品などが占め水平貿易に急速に構造変化をもたらしている。この現状が韓国の対日経済の依存度、緊密度を急激に下げている。これは韓国の経済的地位の向上を如実に物語り、自信を持たせていることは間違いない。

韓国の輸出・輸入に占める主要国の割合〈表2〉(%)

(年) 輸出 輸入
米国 日本 中国 米国 日本 中国
2000 21.8 11.9 10.7 18.2 19.8 8.0
2010 10.7 6.1 25.1 9.5 15.1 16.8
2017 12.0 4.7 24.8 10.6 11.5 20.5
2018 12.0 5.0 26.8 11.0 10.2 19.9

(資料)「日韓の断層」 嶺岸博 2019年5月、日本経済新聞社

他方、日本としては、従来からの対立問題も数多くあったが、最近においては、①慰安婦問題では、日韓合意の無視、支援財団の一方的な解散決定、②竹島領有問題では、不法占拠、③慰安婦関連少女像設置では、外国公館の隣接地域での設置禁止の「ウイーン条約」違反など「積年の不満」があり、そこに安倍政権の長期化、保守化が追加され、従来からの韓国に対する要求を強く主張したのである。さらに国民の「嫌韓感情」の復活も起こり始めた。それが今回の日本政府の取った措置に対して七〇%程度の高い賛成を示していることでもわかる。

対立の実態

今回の日韓関係の対立はまだ始まって時間があまり経過していないので、今後への影響について言及するのはまだ時期尚早と思われるが、徐々にその現象も現れ始めている。

まずは日本製品の不買運動である。一例として、八月の日本自動車の販売は五〇%の減少をみた。またソウル市、プサン市などの地方自治体の「日本の戦犯企業の商品の購入制限」の条例案が地方議会で可決されている。

次に双方の旅行客数の減少傾向がはっきりとしてきたことである。ただ二〇一八年の韓国人訪日観光客数が人口五千万超に対して七百五十万人も来日している。反対に日本人のそれは二百五十万人で合計一千万人以上が相互訪問している。この事実は短期的には減少するが、長期的には増加傾向を示すと思われる。これと関連して定期航空路の減便、運休、中止などが相次いでいる。また両国の地方自治体間の相互交流行事が中止に追い込まれている。草の根レベルの交流拡大にとっては重要な役割を担っているので早急の対策が必要である。一方、このような環境下でも、ユニクロ系列のGU社がソウルに出店計画を推し進めている。その他には、日本留学希望者の募集活動のセミナーが順調に開催されているのも事実である。

展 望

日韓関係が急速に冷え込んでいる現状は、短期的にはそう簡単には解決が難しい。当面、悪化した関係をこれ以上長期化させないことに重点を置くべきである。なぜなら韓国の政権交代はよく十年周期の傾向があると言われているからである。文政権の任期はあと二年半残っているが、十年周期説に従えば次期革新政権分を含めると七年以上の時間がある。しかし、韓国は地政学上、外部の環境変化を常に受けやすい地域なので、何が起こるか分からない不安定性がある。日本としてはこの観点が必要である。

今回の関係悪化は、本来的には二国間だけに限定された問題であったが、今回は米国を含む日米韓三か国の関係にまで発展する可能性を示唆しているように思えるので、充分配慮することが大事である。

基本的には、両国は「ウイン・ウイン関係」の立場に立ってこの問題を処理していく必要がある。具体的には首脳間の信頼を深め、頻繁に首脳会談を実施するべきである。経済対話も重要ではあるが、当面政治的対話が非常に大事である。しかし現状は非常に不十分である。

ところで、韓国では国会選挙の度に新人国会議員が多く当選するきらいがある。政治経験が少ない上に、相対的に日本理解度の不足、日本語ができる議員も少ない。その結果、政治対話の交流ルートの貧弱化を招いているので、政治家を含めあらゆる次元で対話を活発化させるべきである。国民レベルでは、当分の間、傍観しているのがいいのではないかと、ある意味で後ろ向きになるのは残念ながら仕方ないと思われる。韓国もできるだけ早く日本のこの雰囲気を理解すべきであると思う。

大事なことは今回の事態に対して、日本は妥協せず毅然と日本の意志を貫くべきである。将来のためには、日本にとって非常によい機会にすべきである。

最後に従来からよく指摘されている両国は「近くて似ている国」ではなく「近くて異なる国」であるという認識が必要なのかも知れない。