巻頭言

三月号巻頭言「勝敗・三月十日」解説
市 村 真 一 / 京都大学名誉教授 

満八十歳のある日、私は明治元年から昭和二十年終戦までが凡そ八十年と気付き、愕然とした。明治、大正、昭和、平成、四代の多事多難な日本近代史が私の人生と同期間とは、何と短く凝縮した歴史であるか。仰いで来た先哲方がすぐ傍の先輩の様に思へた!

幕末から続く近代国家日本の出現は、黒船来航から十五年後には、倒幕と王政復古を成し遂げ、内は「五カ条の御誓文」通り、西南の役を乗り越え、議会を開き、憲法を制定して、着々体制を整へ、外には、台湾出兵、日清戦争を戦ひ、日露戦争に勝利して、非西欧国家として初めて彼等の植民地支配に一矢を報いた。

水師営の会見の情景は、佐佐木信綱作詞の歌に美しいが、乃木希典大将はいささかも傲ることなく、記念写真も一枚に限られた。巻頭の大将の言葉には、敗軍の将への温かい思ひやりを感じる。

日本は三月十日を陸軍記念日とし、日本海海戦勝利の五月二十七日を海軍記念日としたが、これ等は復活されてゐない。正に、勝敗は時の運なのである。

米軍は敗戦の年の三月十日午前零時過ぎから東京にB29爆撃機三百数十機で大空襲を行った。それは木造の日本の下町を狙つた焼夷弾の無差別爆撃で、広島、長崎への原爆投下の前兆であつた。