インタビューレポート 多摩織

福田  舞大学生

今回は、東京の八王子市で多摩織 (たまおり)を作っておられる澤井伸さんをお訪ねしました。

― 早速ですが、多摩織作りに入られたきっかけは どういうことだったのでしょうか。

「きっかけですか、そうですね、私の家は代々織物 作りを家業としており、私で四代目になります。私が 織物を作り始めたときにはまだ多摩織という名前は付 いておらず、自分が作っている物に多摩織という名称 が付けられたのです。私は四十二年ほど織物を織って いますが、今年でちょうど多摩織と言う名前を与えられてから四十年が経ちます。名前が付けられた後に試 験を受けて資格をもらいました。そのために、多摩織 を作り始めたという のは少し違う気がし ますね」

― では、自分の 作っている物が伝統工芸品として、多摩織と言う名を付けられたとき、どう思われましたか?

「そうですね、特にこれと言って何かが変わった訳 ではありませんでしたし、そうなのか、と受け入れた だけだった覚えがあります」

― なるほど、では澤井さんにとって、伝統を受け 継ぐというのはどういうことでしょうか。

「あまり意識はしていませんが、受け継いだ責任は あると思っています。と言うのは、現在は多摩織の需 要が減って来てしまっています。着物を着る文化が 減ってしまいましたし、自分の物を買うより、必要な ときにはレンタルするという人も多くなっていますか ら。でもだからといって、売れないから廃 や めようとす るわけにはいきません。そうだとしても、売れない物 を作り続けても商売として成り立たないし、続けるこ とは困難になってしまいます。そのためには、その代 その代で、いろいろな工夫をすることで残していく努力が必要です。そうしないと次に繋 つながって行きません からね」

― 工夫というと、澤井さんはどのような工夫をしているかお教えいただけますか。

「そうですね、まず多摩織には、召 おめしおり 織、紬 つむぎおり 織、風 ふう 通 つう 織 おり 、変り織、綟 もじり織という五種類があります。それ ぞれ、厚さが異なっていたり、手触りが違ったり、特 長が全く異なります。多摩で作られたということ、長 く作られ続けているということ以外に共通点はありま せんが、それぞれに決まった織り方、サイズがあり、 この作り方自体を、工夫したりして多摩織を変えてい くことは出来ません。少しでも変えればそれは多摩織 と呼ぶことは出来なくなるからです。そこで考えたのは、その織り方を他に応用すること です。例えば、ストールに多摩織の技術を応用したり もしました。そうすると、伝統工芸品として「多摩織」 と呼ぶことは出来ませんが、品質はとても良い物が出 来ます。現在は企業と連携するなどして、多摩織の技 術を応用した商品を作らせていただいています。自分の持つ技術がどんなものにどう生かしていける かを常に考えています。物を作る仕事をしている以上、 欲しいと思っていただける物を作り、需要に応えてい くことが大切だと思っているので。多摩織に限らず、伝統というものを守っていくためには、時代に合わせ て進化していく必要があると、私は思っています。進化、という点で言うと、皆さんもご存じの、グー グルさんとお仕事をしたこともあります。触るとスマ ホが連動して起動する布を開発する、ということに チャレンジしました。伝統工芸品である多摩織の技術 とITが合体することで、時代に適用していく。大切 なのは多摩織だけにこだわるだけでなく、その技術を 残していくことだと思います。このようなことも含め、 伝統工芸品を守るためにも、進化していくことは必須 と言えます」

― それでは、澤井さんが多摩織を作り続ける原動 力はなんでしょうか。

「先ほどお話ししたストールなんですが、作り始め た頃にお買い上げいただいたお客様が、何年も経った 後に私のところにいらしたことがあったんです。その 時、何か新しい物はないですか?と聞かれました。そ のお客様は私が作ったストールを身につけてくださっ ていました。こういう風に、自分の作った物が何年も 使われて、また自分のところに買いに来てくれる、と いうことはとても嬉しいことです。自分の物を必要と してくれる人がいるということは、私にとって原動力 になっています」