あまりにも知られていない自衛隊の実態

桜林美佐/防衛問題研究家
コロナウイルスと自衛隊

新型コロナウイルスの流行で世界が未曽有の危機に直面している今、自衛隊のあり方について改めて確認しておく必要があると感じます。

新型コロナ対応で自衛隊も災害派遣で出動し、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号での生活支援や、患者の搬送、そして帰国する米国、イギリス、イタリアなどの外国人を羽田空港まで輸送するなどの活動をしました。

徹底した感染防止措置を講じた上で活動し、一人の感染者も出さず一回目の活動を終えました。その後また空港での検疫や宿泊施設への移送を引き受けるために再度災害派遣命令が出されています。

こうした実績について、巷では「あまり報じられていない」と、メディアに対する批判も出ているようですが、最近は自衛隊としても、現場で頑張っている隊員のことは知ってもらいたい一方で「自衛隊がやって当然」と思われるのを避けるためにも、大々的にPRしかねる複雑な心境もあるのではないでしょうか。また、自然災害での派遣活動のように、自衛隊の姿をテレビなどで映し出すだけでも人々に安心感を与えるという性質のものではないことも関係しているかもしれません。

今回のコロナ対応では自衛隊病院や医官、看護官、衛生職種の人員も大いに活躍しています。このことももっと報じられ称賛されてしかるべきとも言われますが、私はむしろ野放図に報道されるべきではないと考えています。自衛隊医療が、自衛隊の活動と同様にその役割を勘違いされることを避けるべきだからです。

自衛隊医療は、そもそも自衛隊員に対するものであり、一般の感染症患者受け入れにより、自衛隊のための医師や病床が足りなくなるような事態は絶対にあってはならないことです。

「自衛隊以外は診療しないのか」というお叱りを受けるかもしれませんが、存在の前提はまさにその通りなのです。

そうかといって、自衛隊に限定し病床を余らせておくと「税金のムダ使い」とされることや、かねて「水虫と風邪の治療しかできない」などと言われ、症例の経験が積めない医官のためにも、また地域医療との連携のためにも一般患者に門戸を開いてきました。

そして、感染症に関しては、自衛隊が海外でも活動するようになり、対応の必要性が高まったために専門家の育成が始まりましたが、まだ緒に就いたばかりの取り組みです。

現在、一般の感染者に対する対応が可能なのは、現時点で大規模な災害などが起きていないからで、もし、自衛隊としての活動の必要性が出てきた時はどうするのだろうかという話は、誰もが口にし難い現状なのではないかと想像します。

国防に穴を空けないために

中国が発端のコロナ禍で世の中が騒然となっている今も、中国公船の領海への侵入は増え続け、北朝鮮のミサイル発射も止まっていません。特に尖閣諸島周辺の接続水域を航行した中国公船は一~三月で延べ二百八十九隻と、前年同期比で実に五七パーセントも増加しているということです。

一方、米軍におけるコロナ感染者も増加しており、米国は安全保障上の理由から詳しい人数等の情報公開を避けるようにさえなりました。在日米軍の存在が抑止力として多大な効果を持っていることから、日本は脆弱 (ぜいじゃく)になっていると言わざるを得ない状況です。

そんな中でも国土防衛を貫くためには、自衛隊の精強性を対外的に見せることが重要になります。それはつまり、実任務と併せて「訓練もしっかり行う」ことです。

自衛隊内に感染者が続出しないこと、コロナ対応においても対策を万全にして任務遂行していること、領土・領海・領空の警戒監視任務を粛々と行っていること、教育や訓練を止めないこと、こうした自衛隊の姿が「付け入る隙を与えない」ことになっているのです。

中でも、いかにして「国防に穴を空けないか」が、自衛隊にとって最大の問題です。そのためにも自衛隊は、完全なる「自己完結組織」である必要があります。自己完結能力とは、基地や駐屯地が破壊されても速やかにインフラを修復し、破損した装備は直し、活動できる状態にするもので、医療もその一環なのです。

しかし、これがなかなか理解されません。例えば自衛隊が持つ救難機は自衛隊機の事故に備えたものなのに、山のキノコ採り遭難者を助けるものだと思われていたり、サイバー部隊は自衛隊自身のシステム防護のためのものなのに、社会インフラを守ってくれると誤解している日本人が多いといった具合です。

その意味で、昨今の世論調査では「自衛隊に対する信頼度が高まっている」と言いますが、むしろ大きな認識の齟齬(そご)ができている可能性も否(いな)めないのです。

災害派遣に高まる期待

令和元年十月に発生した台風十九号の被災地には、私が現在暮らしている福岡県からも自衛隊が災害派遣で長野県に赴きました。ちょうど、W杯ラグビー日本戦で、近隣の家からはテレビ観戦の音が聞こえる中で、夜九時過ぎに大型車両が真っ暗な道を次々に通って行きました。

この部隊は出発の当日まで他県で演習をしていたといい、台風の到来で自分たちにも派遣要請があるかもしれないと一日早く切り上げたために最終日は徹夜だったそうです。二日かけて長野に入り、現地での作業は、毎日夜七時から午前三時。これは、被災地は道も狭く昼間は被災者が動くということで、活動時間が深夜に設定されたのだそうです。人々の寝静まった頃、氷雨降る真夜中に黙々と災害廃棄物の処理にあたる姿を見た人は「ただ感謝するしかなかった」といいます。

こうした自衛隊の活動に対し「自衛隊は便利屋ではない!」「国防に集中させるべきだ」という声も聞かれます。同感です。東日本大震災以降、国民の支持が高まった自衛隊ですが、その期待する役割のほとんどが「災害派遣」であることには、私も強い危機感を覚えざるを得ません。

しかし、そうは言っても、ほぼ毎年、規模の大きな災害が起きている実情からすると、今後も自衛隊が頼りにされる状況は続くことになるでしょう。実際、被災地という過酷な現場で自衛隊以上のパフォーマンスを発揮できる組織は他にないからです。

問題は、派遣そのものというより、だらだらと活動が継続されることや、自衛隊がすべきではないことまで依頼されることです。例えば新型コロナ対応ではクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の乗客を隠すブルーシート張りや、下船後に滞在した宿泊所で食事を配ったり、テレビの配線作業まで頼まれたのだと報じられています。

その他、豚コレラ、除雪作業などなど、本当に自衛隊に頼まなければならないのか。疑問の余地がある要請もあるため、防衛省は災害派遣における今後の役割分担について関係省庁と自治体と調整を進めると言います。当然のことでしょう。

因みに、自衛隊の災害派遣には「緊急性」「公共性」「非代替性」という三要件があるのですが、ほとんど形骸化していますし、元々これ、法的な根拠があるわけではなく曖昧なものだったのかもしれません。

私は自衛隊が地方自治体の要請によって災害時に大いに使われることによって、教育・訓練の時間が奪われることを最も懸念しています。台風十九号に際する災害派遣では、陸上自衛隊の訓練の一割が中止されたといいますが、訓練こそが組織の精強性を維持するために絶対不可欠なことであり、訓練機会を奪うということの意味の大きさ、ダメージを多くの人に知ってもらいたいと思います。

誤った視点での「自衛隊は可哀想!」

こうした中、いささか誤った視点での自衛隊の問題点が指摘されることがあります。中でも目立つのが「自衛隊が可哀想だ」という話です。災害派遣では自衛官は活動中にトイレをガマンするため、ビニール袋を持参したり、日中は飲食をしないようにしています。これは気の毒だということで、コンビニ等のトイレを自衛隊に使わせてあげてという声が沸き上がりました。とてもありがたい運動ではあれ、実のところは「自衛隊をばかにするな!」という自衛官からの反応があったことも確かなのです。

陸上自衛隊は、そもそも野戦の訓練を積んでおり、壮絶な環境下でも戦い続ける訓練をしています。だからこそ、災害派遣でも警察や消防と違い長期間の活動が継続できるのです。

訓練で想定されている状況は敵が潜んでいるか分からず、仲間は殺されるかもしれないというものです。休憩など取れません。夜間は体を休めるどころか、最も警戒しなければならない時間であるという超ストレス環境なのです。

災害派遣では身の危険を感じずに休憩できるわけですから、平素の訓練よりも彼らにとっては容易なのです。自衛官の災害派遣での活動は、この訓練があってこそのものです。

雑魚寝(ざこね)をしたり、トイレも行かれないのは気の毒だと言われますが、これが軍隊の姿であり、トイレの問題が取り沙汰されたのは、災害派遣の場合は人々のいる中での活動であるため、草むらで用を足すわけにはいかないからです。そのためのビニール袋を持参していたことが分かり、衛生上の理由からも対処が求められたのでしょう。

自衛官はプロの「軍人」であり、サバイバル能力を備えています。女性自衛官も同様です。かつて九州地方を襲った水害時に、二週間役場に詰めていた女性自衛官は「パンツの替えがなかったので補給された男性隊員のを使いました」と笑いながら話していました。こうした逞しい働きができるのは、自衛隊をおいて他にないのです。

自衛隊の不憫(ふびん)さに「憲法が悪い」というコメントも散見されますが、生活状況に関するこれらの個別の事々とは全く関係ないことです。そのあたりを区別しなければ、改憲のための方便にしているのではないかと疑われかねず、かえって事態は悪くなります。

問題の本質は、現在の多くの日本人が「軍」というものをよく理解していないことであり、むしろ忌み嫌うべきは派遣先での不自由環境ではなく、軍事組織にとって最重要かつ不可欠である訓練の時間を減らされてしまうことです。

別組織を作るよりも大事なことがある

本来の任務に支障をきたすことから、災害派遣については別組織を作るべきという話も出ています。

もちろん、それができるなら良いかもしれませんが、実際には困難だと思います。なぜなら、現在の自衛隊は戦後七十年かけて鍛えられ作り上げられた実力組織であり、同じレベルのものを別にもう一つ誕生させるために必要な時間とコストは計り知れないからです。

その間は自衛隊が担務せざるを得ず、それならば、自衛隊の人員や施設、装備をそのまま使うべく充実させる方が合理的です。

その際に、私たち国民がすべきは、災害対処機能を充実させるがために国防機能を低下させるような愚をしていないか常に注意を払うことです。

自然災害が苛烈(かれつ)化かし、中国・ロシア・北朝鮮そして最近は韓国まで含めた周辺国からの圧力も後を絶たない時代になっているにも拘わらず、相変らず、わが国の防衛力について国民に尋ねると「現状のままでいい」などという答えが最も多いといいます。

これだけは断言できますが、自衛隊の予算や人員は「現状のままで良い」ということは絶対にありません。このままの規模では国家の主権、国土を守ること、ひいては国民の安全・安心に繋げるには極めて不十分と言わざるを得ません。

日本の防衛予算は世界的に見ても八位ないしは九位にランキングされる金額となっていますが、GDP比からすれば、世界の中で百位以下なのです。その規模で国防を維持できるのは日米同盟に依存している部分が多いからです。

たまたま日本は、米国にとって戦略的に絶好の場所に位置しているために、米軍拠点の提供だけでも大きな保護を得られてきたわけですが、そうした地政学的・軍事的思考とは違う世界から来たトランプ大統領には不満要素でしかなく、今後はより大きな拠出を求められることになるでしょう。

しかし、米国に言われようが言われまいが、ここは絶対にやらねばなりません。そうでないと、これから先は自衛隊が恐ろしいほどに不足する時代がやってくるからです。

人口減と少子高齢化が自衛隊においても喫緊の課題となっています。若年人口減少の影響は避け難く、十八歳~二十六歳の入隊資格を持つ国民数は平成六年(一九九四)の千七百万人をピークに、平成二十九年には一千万人を割り込みました。

しかし、そもそも自衛隊は常に定員を満たしてきていません。自衛官の定員は二十四万七千百五十四人ですが、現員は二十二万六千七百八十九人。つまり二万人近く足りていない。これは、防衛費に占める人件・糧食費の割合が半分近くになることから、充足に抑制的となってきた経緯もあるのです。当然のことながら、その負担は全て現場の隊員が背負ってきました。

特に士クラスの兵卒の人員が定員五万六千九百二十一人に対し現員は四万一千九百二十七人で、充足率が七三・七パーセントとなっていることは、実際に動ける隊員が最も不足していることを意味します。

こうした実情から、現在様々な改革が試みられ、平成三十年十月に採用者の年齢の上限を二十七歳未満から三十三歳未満に引き上げるとともに、令和二年から、定年の年齢も、階級に応じて一歳~五歳引き上げることも決まっています(自衛官は定年が早く設定されていて、曹士以下であれば五十歳代前半)。

ただし、定年引上げが実施されても、対象は佐官から曹までなので、若い士クラスは状況の回復が見込めないままです。これには多くの高卒者が大学などへの進学を目指すようになり、高卒で就職を目指す人口そのものが減っている社会背景も関係しています。

かつては自衛官のなり手が少なく、上野公園でふらふらしている若者に声をかけ「名前さえ書ければいいから」と勧誘していたなど都市伝説のような話がありましたが(多分、本当の話!)、今となっては求められる人員の様相は全く違っています。

ハイテク化が進んだ防衛装備を使うこともあり、一定以上の学力も求められています。誰でも良いというわけではありません。諸外国の多くが志願制を採用しているのはこのためです。軍は国のエリート集団でないといけないのです。

実際に、受験の倍率は依然として高く、希望者はいるのです。ただ、採用条件を低くするわけにはいかないため、現在は女性枠の制限緩和などの施策が進められ、質を落とさないようにしているのです(女性枠は人数が決まっていたため、成績が良くても不合格になっていたというわけです……)。

こうした経緯を知って頂くと、よく「徴兵制はあるのか」、あるいは「あるべき」といった声を聞くことがあります。人件費がかかるからと、これだけ人員を抑制してきた日本の政治や行政が、いかにすればそんな発想に至るのか、また、現代の軍事組織が求めているのはエリート人材であることからも「徴兵制」は非現実的なものであると私は思います。

自衛官を増やすための策

とは言え、自衛官が足りないと嘆いてばかりはいられません。なんとしても維持することが必要です。そこで改めて問いかけたいのは「人口が増えないから自衛官が減っているのか?」ということです。

自衛官不足の説明には、常に日本の人口減が理由として語られますが、私たちはそのように思い込んでいるだけなのかもしれません。

そもそも、若い人から成る任期制隊員というのは、その任期が二年~六年間となっていますので、いわば「契約社員」、どうしても人気がないのです。もちろん、昇任試験に合格すれば定年まで働くことも可能ですが、これは非常に難関です。

自衛官不足と一括りで表現されますが、終身雇用となる曹・幹部クラスは現時点でそこまで深刻な状況ではありません。

つまり、頑張れば定年まで働けるなどの「魅力化」次第で、応募はある程度は増えるのではないかと、私は思います。実のところ、同じ公務員でも警察や消防といった地方公務員の方が給与面などがトータルで魅力があるのです。同じような仕事だったら地元に根差し、終身雇用で、引っ越しもない消防や警察の方が家族にとってもありがたいのです。

また、リーマンショック後に日本経済が後退した時は安定職業として人が集まりましたが、景気が上向くと、とたんに民間企業に流れたことも募集難の大きな要因です。国防の意志を持つ若者が自衛隊に合格しても、そうした経済的な理由などから親御さんが反対して断念させられるケースも少なからずあるといいます。

思い出すのは、米軍基地で見かけた恰幅の良い女性です。聞けば彼女はシングルマザーで十人も子供がいると言うのです。しかし、成長した子供たちの何人かが軍人になり、今はこうして日本の米軍基地で暮らしているということでした。異国の地に来ているとはいえ、買い物も医療も子供の学校もあらゆる面で心配は要らない生活ができるということは、何よりの救いなのです。

防衛省全体の取り組みとして、女性の進出を促すべく託児所を充実させるなどの方策を進めています。これが重要でないとは思いませんが、託児所さえ作れば良いというのはいかにもお役所的で、これだけで人を減らさない策になるとは到底思えません。

すでに日本社会では、子育て以上に、親の介護問題が大きくなっています。自衛隊も例外ではなく、これからは「三世代が安心して暮らせる」レベルの魅力化を図らなければ画期的な人員増は期待できないと思います。

「人が集まらない」、特に海上自衛隊では若い人が艦艇や潜水艦に乗りたがらず足りないといわれます。しかし、毎年入隊する人数は一万人前後です。若年人口が一千万人を下ったからといって、一万人の人を集めるのはそんなに難しいことなのでしょうか?

私はこの問題の根幹は、自衛官の給与を上げるとか、処遇を改善するという最も大事なポイントを防衛省・自衛隊としては誰も言い出さないことにあると思います。これは当然で、彼らは皆「国家公務員」だからです。既定路線の枠内で、懸命にできることをするしかないのです。

現在、海上自衛隊の艦艇が中東に派遣されていて、その際には特別手当を増設し新たな保険も整備すると報じられましたが、特別手当は二千円で、保険というのは隊員が生命保険会社に自らお金を払って入るものです。

世界広しといえど、軍人が自ら生命保険をかけて海外に行く国はないでしょう。それだけ日本は特異な環境なのです。それなのに、服務の宣誓では生命を賭(と)して国防の任務にあたることを誓っているのです。これで希望者を増やそうと言う方が無理があります。

憲法改正はどうあるべきか

国防に関するこれら数々の問題を解決させるためには、やはり憲法の改正が必要です。自衛官の身分は特別職国家公務員であるために公務員と同じ扱いしかできないからです。それ以上のことをしたくても無理なのです。

憲法改正について、戦力の不保持、交戦権を認めないという現行の九条を変えずに「自衛隊」と書き入れるにとどめる「加憲」では意味がないという意見も多く、今回は書ききれなかった世界の中での役割を考えれば確かに「加憲」では不十分です。

しかし、まず今すぐにしなければならないことは、自衛隊を弱体化させないことであり、そのための人員の確保であり、予算の増額であり、自衛隊の役割を広く正しく知ってもらうことです。そのためには、自衛官が公務員のままではダメなのです。もちろん、自衛隊が国軍となり身分が「軍人」に代ればいいのでしょうが、一足飛びは極めて困難です。

どこかに引っ越して転居先に住民票を移すには必ず転出届が必要なのと同じで、今言われている「自衛隊明記」は、位置付けをとにかく国家公務員でなくするための、いわば「転出届」だと私は捉えています。転出しなければ転入できないのです。

理想を追い求めている間に、今日この日にも自衛官はどんどん辞めて行き、入隊者は減っています。今すぐに、それを食い止めなくてはなりません。