巻頭言

八月号巻頭言「ロシア流交渉術」解説
市村真一 / 京都大学名誉教授 

敗戦後七十五年たつても、尺寸の地も動かず、一文字も変へられぬのが、北方領土と日本国憲法である。 敗戦の日、涙して祖国再建を誓つた青年の一人として、憲法も改正して欲しいし、北方領土も全部返還して欲しい。憲法は、他人事でなく誰よりも国民自身の問題であるから、しばらく措(お)くとして、領土にはロシア相手の交渉があり、既に重ねられた。

だが、ロシアは中立条約を破つて日本に侵入し軍人や民間人を殺傷したことも、六十五万有余の日本兵を捕虜として長く抑留し、国際条約に反して強制労働に従事せしめ、異国の丘に死者数万の悲劇も一切無視した。国の名誉や反省は一切口にせず、いな一旦は外交交渉で認めた事も不当に頬被りした。(七月八日付、袴田茂樹教授、産経「正論」参照)

しかし、チャンスは必ず来る。旧ソ連でも「プラハの春」は武力で弾圧したが、ベルリンの壁の時は中東欧民の西欧への脱出をソ連政府も黙認した。国民の反ソ圧力とソ連財政の窮状が軍の動員を許さなかつたのだ。