ご養蚕の伝統を受け継がれる皇后陛下

三荻 祥  /皇室ジャーナリスト

令和初のご養蚕

本年七月十日、皇后陛下は皇居内にある紅葉山御養蚕(ようさん)所で今年のご養蚕を終える「御養蚕納 (おさめ)の儀」に臨まれたことが、ニュースなどで報じられました。

「養蚕」とは蚕(かいこ)を育て、その蚕が作った繭(まゆ)から生糸(きいと)を作り出すことで、かつて我が国では重要な産業の一つでした。平成二十六年に世界遺産に登録された富岡製糸場は、明治五年の建設以来、繭を紡いで作る生糸の生産を行っていました。生糸は一時、我が国の主要な輸出品の一つとなっていましたが、時代の移り変わりとともに、製糸業は衰退の一途をたどりました。

そうした状況に対し、養蚕の伝統を守ろうとされた方がいらっしゃいました。それが、明治天皇のお后(きさき)・昭憲皇太后です。『日本書紀』では四六二年に雄略天皇がお后にご養蚕を勧め、国内の蚕を集めさせた、との記述がありますが、長らく宮中でご養蚕は途絶えていました。しかし明治四年に昭憲皇太后が復活されたのです。以来、大正、昭和、平成とその伝統が受け継がれ、この度、皇后陛下も令和の御代となって初めてのご養蚕をつつがなく終えられました。

現在、宮中で飼育されている蚕の品種は純国産の「小石丸」、日中交雑種の「白繭」、欧中交雑種の「黄繭」、日本原産の野生種の「天蚕(てんさん)」の四種です(五月二十五日付の『神社新報』によれば、新型コロナウイルスの流行に伴い、蚕をお世話する人が減ったため、本年度は小石丸のみ)。ご養蚕は皇居内にある紅葉山御養蚕所において、春から夏にかけて行われます。皇后陛下がご養蚕に関わられる主なものには、次の五つが挙げられます。

● 御養蚕始(ようさんはじめ)の儀

孵化(ふか)したばかりの、三ミリほどの黒い蚕を、小さな箒(ほうき)を使って飼育用の箱に落とす作業。今年は、五月十一日に行われた。

● 御給桑行事(ごきゅうそうぎょうじ)

皇后陛下御自ら桑の葉を与えられる第一回目の行事。餌となる桑の葉は皇居内の桑畑で摘み取られる。今年は五月二十九日にご出席された。

● 上蔟(じょうぞく)

蚕に繭を作らせるための蔟(ぞく)と呼ばれる用具に蚕を移す作業。蚕は三日ほどで繭になる。他の蚕より小さく、動きの鈍い小石丸には、皇后陛下が藁(わら)の蔟を手で編まれる。今年は六月二日に行われた。この時皇后陛下は、約二千頭を蔟に移された。

●初繭掻(はつまゆかき)

上蔟の一週間後、繭を蔟から外す最初の作業。今年はご欠席。

● 御養蚕納(ごようさんおさめ)の儀(ぎ)

出荷された繭から生糸が作られ、一連の作業が終わると行われる儀式。今年は約三十キロの生糸が神前に供えられた。

この他にも、六月十六日には繭切り・採種にお取組みになりました。皇后陛下は、天皇陛下のご即位後初めてとなる御養蚕を、二か月に亘(わた)ってつつがなく終えられました。

蚕を十年も育てられる愛子内親王殿下

このように皇居では歴代皇后に受け継がれる形でご養蚕が行われていますが、実は、愛子内親王殿下も赤坂御所内の一室で、ご自身で蚕を育てられています。

六月に行われた侍従次長の定例会見の際に「愛子さまも十年蚕を飼ってらっしゃいます」と発表されました。侍従次長によると、愛子内親王殿下が初等科三年生の頃に授業でもらった蚕を、何世代にもわたり大切に育てていらっしゃるとのことでした。また病気で全滅してしまわないようにと、二つのグループに分けて育てるなどの工夫をされているようです。

その後、愛子内親王殿下が自らご撮影された写真が公開されました。黄色や白の繭を並べているものや小さな蚕たちが桑の葉を食べる様子、成虫になったものが卵を産んでいるものなど、蚕の成長を愛でられるご様子が伝わるものばかりでした。

我が国の伝統的産業である養蚕。令和の御代では、皇后陛下のみならず、天皇ご一家がそのご養蚕に取り組まれているという事実を、ぜひとも知っておいていただきたいと思います。