
十月号巻頭言「冷戦期の左翼学者」解説
市村真一 / 京都大学名誉教授
市村真一 / 京都大学名誉教授
今月は、九月号巻頭言、ポンペオ米国務長官の対中挑戦状の紹介の補論である。冷戦の始終は、北鮮の南侵とベルリンの壁の打ち壊しで世界周知だが、その前史、途中経過、幕引、後の波紋も含め、後者への戒めになる。紹介した挿話は、途中の左翼学者、言論人の“昏迷”の一端を示す。
日本の学界は欧米の学界主流の眼から、一種異様と見られて来た。特に経済学と歴史学は。次いで政治学を挙げても良い。なにしろ、名だたる大学の「経済原論」が、マルクス経済学と近代経済学との並行講義で、二十一世紀初めまで選択必修だつた。そんな国は、旧ソ連を含めて、世界中どこにもない。
スターリンの死後は、スターリン批判、キューバ危機、ベトナム戦争、ゴルバチョフ大改革、ソ連崩壊と続く。その間、左翼知識人に一片の知的良心があれば、心中“ただならぬ”ものがあつたらう。
嘗てのマルクス・唯物史観・社会主義を担いでの所見への弁解、ないしはそれから転向の弁は無いのか。
昭和初年、左翼から転向した林房雄氏の「転向」の言葉とその後の活躍は、若き頃、印象深く拝読し教へられた。
今、激動の中で、左様の弁を聞けなければ、貴方がたは、破綻証明ずみの全体主義の党に期待をかけるのであるか。