巻頭言

十一月号巻頭言「明治天皇御製」解説
市村真一 / 京都大学名誉教授 

十一月三日は、子供の頃「明治節」であつた。明治は、遠い祖父達の時代と見えてゐたが、いま九十五歳の老翁になつて回顧すると、ついこの間のやうに感じる。なにしろ、明治はたつた四十五年、我が人生の半分にもならない。その間に、日本はなんと大きな、多くの事業を為し遂げたことか。封建社会から近代国家に大変貌した。

明治元年早くも、五カ条の御誓文に新国家建設の方針を宣言し、二十二年に憲法制定、二十三年に教育勅語渙発。いくつもの熾烈(しれつ)な内戦を乗り越え、二十七、八年に清国、三十七、八年にロシアと国運を賭した戦争に勝利し、台湾・南樺太・千島列島を領有、満州の一角に利権まで得た。そして四十三年には朝鮮を併合した。

大正・昭和の二大大戦では、我等は、一は勝利し、二は敗戦し、明治に獲得した外領はすべて喪失した。だが、経済はよく世界三位に復興して世界を驚嘆させた。戦後七十五年、大英帝国は解体し、ソ連は崩壊し、米中は愈々世界の覇権争ひに乗り出した。その今年、世界はコロナ疫病の襲来に昏迷、死者既に百万。日本はどんな道を歩むのか。そして世界に何を語りかけるのか。