巻頭言

正月号巻頭言 『大正天皇御製』 解説

市村真一 / 京都大学名誉教授 

大正は難しい十五年であつた。勿論、明治の四十五年は全世界を驚嘆せしめたが、日清、日露戦争に勝ち、不平等条約改正を成就し、第一次世界大戦(一九一四―一八‥大正三―七)の勝利側に立つた日本は、米英仏に次ぎ一等国の驥尾(きび)についたが、更なる経済成長は先進国の高関税障壁と激突。国内は、農村の疲弊・労資対立・貧富の較差・国民の政治参加要求への対処を迫られ、大正デモクラシーの名の議会政治は難渋した。

国際関係も、ロシア革命・辛亥革命の成功、共産党勢力のロシアおよびシナでの伸長等が起り、先進国間の力の対立も厳しく、日本の軍事経済力は、第一次世界大戦後の世界では、対立国に比し劣勢だつた。それは、主として工業化の進展は欧米に追いついたが、凌駕(りょうが)できなかつたからだ。

一九二〇年代の世界は好況だつたが、三〇年代は不況に沈んだ。その初頭、独米の公共投資と軍備の拡大が経済を救済するやに見え、世界は誤つて第二次世界大戦に突入した。それは、ケインズが指摘の如く、第一次世界大戦後のドイツに高賠償を課した連合国の誤りによる。難局での名策提示と政治忍耐の真価を大国に教へ得ざりし、学びの業の責務怠慢である。