巻頭言

三月号巻頭言『国づくりと国の崩壊』解説

市村真一/ 京都大学名誉教授 

二十世紀は日露戦争とロシア革命で明け、ロマノフ王朝は滅亡した。代つた共産国ソ連も、崩壊消滅した。また七つの海を支配してゐた大英帝国も、勝利した第二次大戦後に四分五裂し、その世界形成への影響力は一挙に縮小した。嗚呼(ああ)、何といふ世界情勢の激変であるか。

日本の敗戦を二十歳の青年将校として迎へた私は、九十六歳の老翁となつた。今まで世界をつぶさに観察し、体験した一学徒として痛感するのは、世の転変、国の栄枯盛衰が、いかに予想し難いかである。それを、『平家物語』の巻頭の一文の如く、「ただ春の世の夢の如し」との感懐で済ますわけには行かない。

諸国民の大多数の苦楽生死、諸民族の興亡、国家の盛衰の厳しい現実は、我等の眼前に展開してゐるからである。

心ある多くの友よ、我々の科学技術や医療の学は、日進月歩してゐる。しばらく蝸牛角上
(かぎゅうかくじょう) の争ひを止めて、互ひに小異を忍んで、大同に就くことができぬ筈はないではないか。