『日本』平成31年1月号

御代替わりを迎えた今年こそ憲法改正を

永江太郎/ (一財) 日本学協会 常務理事


今年は、桜の季節が終わる頃に、譲位された上皇陛下が見守られる中で、天皇陛下の御慶事が待っている。日本国内は慶祝一色に包まれることであろう。

しかしながら、案じられるのは「政教分離」という言葉などを意図的に曲解・悪用して、伝統的行事を歪(ゆが)めよう貶(おとし)めようとする勢力が、野党やマスコミ界に根強く残っている現実である。それでも政府や国民は、彼らの意図的な言動に幻惑されることなく、粛々(しゅくしゅく)と祝賀行事を進めるであろう。

その一方、昨年来の内外情勢を見ると、この度の御代替わりは時代的に大きな転換点、即ち明治維新に始まる戦前期八十年と戦後七十年から、次の新時代に変わる変革期であることを象徴しているように思える。


内政の課題は、国民意識の覚醒と憲法改正の断行

それにしても、昨年は一流企業の改竄や偽装などの不祥事が多かった。これが氷山の一角でなければ幸いであるが、その背景には、戦前期と戦後期で最も大きく変化した国民意識、特にグローバル化の名の下に日本固有の文化が否定され、非関税障壁、官民癒着、談合などの負の面だけが強調された結果、共存共栄の基盤が侵食されて営利至上主義の社会となった事がある。儒教を企業倫理とした渋沢栄一の下で育った実業家は「企業は公器である」という自覚で、常に国家を意識して自らを律していた。この原点が失われて、企業の堕落が始まったのではないか。

更に、敗戦の虚脱感の中で刷り込まれた戦前期の全てを否定する風潮がある。戦後世代の国民の多くが、大なり小なり洗脳されて祖国との一体感を失ってしまった。特に、納税とともに国民の義務である兵役については、戦前期は全国民が当然の義務・責務と考えていたが、戦後期の現在の日本人は、これが国民の二大義務であることすら知らない。

この原因は、占領軍の対日政策にあり、その目的は我が国を再起不能にする弱体化政策にあった。これを永遠に続けるように法制化して強要したのが現憲法であり、容易に改正できないように設けたのが、憲法改正の発議を国会議員の三分の二以上とする第九十六条である。三分の二の壁が如何に厚いかは、憲法制定から七十年にして、初めて改憲政党が国会議員の三分の二を確保した事実が物語っている。

このような戦後体制から脱却するため、第一になすべきことは、占領下で喪失したままの国民意識の覚醒である。そのためには占領憲法改正の必要性、特に改正発議を阻害する第九十六条の改正を国民投票で強力に提唱すべきである。改憲政党が衆参両院議員の三分の二を占めている今年の夏こそ憲法改正の好機であろう。

最近の世論調査の動向を考えると乱暴に思えるかもしれないが、御代替わりを国家再建元年にするという目標を掲げて、日本国憲法は日本人自身で策定すべきである。占領下にアメリカの軍人が作成した憲法に縛られるべきではないと強調し、今回の改正は国会の改正発議を容易にすることが目的で、最終的には国民投票で決めるべき憲法改正を、国会議員の三分の二の壁で発議できない現状を改善する。具体的な条項改正は、その条項毎に改めて国民投票で決めるという方針を明示・強調すれば、国民の支持は得られるのではあるまいか。

第九条などの懸案も一緒に改正することが望ましいが、ここは改正条項を第九十六条一つに絞って、次の通常国会で改正を発議し、七月の参議院選挙を衆参両院選挙とし、同時に国民投票も実施することを提唱したい。失敗した場合を憂慮する人もいるが、今は国民の良識を信じるべきであろう。


山積する日本外交の課題

国際情勢は、昨年に続いて米国を中心に厳しい駆け引きが続くと覚悟すべきであろう。特に懸念されるのは、我が国に直接関わる米鮮関係と米中貿易戦争であるが、トランプ氏は大統領就任直後から、北朝鮮の核開発に強硬な態度を堅持して武力行使の準備を進めていたと思われる。トランプ大統領の決意が本物であると察知した北鮮は、平昌冬季オリンピックを利用して宥和(ゆうわ)に転じ、遂にシンガポールでの米鮮会談を実現させたが、その後の経緯は報道されている通りである。

トランプ大統領の瀬戸際外交は強硬に見えるが、実際は実業家出身らしく常に落とし所を探りながら行っているように思える。それを見抜いた北鮮は米国に武力行使の決意はないと見たのではあるまいか。中間選挙に敗れた直後の昨年十一月の記者会見で、米鮮首脳会談で合意したはずの北鮮の完全非核化について、大統領自ら「全く急いでいない」と強調したのはその証である。経済制裁は当分続くとしても、軍事的脅威から免れたと判断した北鮮のしたたかな引き延ばし戦略は、今後も続くであろう。

それは同時に日本外交の本気度が試され、拉致問題も日本が自らの力で解決する努力をしなければ遠のくことを意味している。一例として、国連でロシアと中国が、人道支援に限って経済制裁を緩和しては、と提言した時、日本代表は何と発言したのか。北鮮への人道問題を提起するのは、拉致という大きな人道問題を北鮮自ら解決した後であると、強硬に主張したのであろうか。

次の課題は、米中貿易戦争への対応である。トランプ政権は、長年続いている知的財産権の侵害等に抗議する経済制裁を昨年七月から発動した。この第一段は三兆八千億円であったが、八月の第二段制裁は一兆八千億円、更に九月には第三段として二十二兆四千億円を発動した。これに対し中国も六兆七千億円の報復関税を発表したが、自由貿易の原則を無視し続けた共産党独裁国家・中国の横暴をこれ以上許さない覚悟は、すべての自由主義国家に求められている。

偽造品で溢れている中国には、知的財産権は守るべきであるという意識が欠落している。さらに進出する企業に対する技術移転の強要や合弁会社の設立を条件としている現状は、明らかに不公正であり、トランプ大統領の保護貿易を批判する資格はない。日本企業も大きな被害を受けているはずである。日本政府としては、少なくともこの三点は、米国と連携して厳しく改善を要求すべきであろう。しかし、ここでもトランプ大統領の落とし所を探る瀬戸際外交には注意しなければなるまい。先月の米中首脳会談で、関税の追加引き上げを三か月猶予をしたのは、その一例である。

最後に日本自身の問題として、中国に対する対応の甘さが指摘できる。例えば、世界第二位の経済大国になった中国に、第三位の日本がなぜ経済開発援助(ODA)を続けていたのか。遺棄と称する化学兵器処理の経費を未だに負担しているのはなぜか。この余りにも甘過ぎる対応が中国を増長させているのである。これからでも遅くはない。日中関係は、援助の時代から共存共栄の時代へ速やかに転換すべきであろう。ODAが配慮すべきは、日本の経済援助を心から求めている低開発国のはずである。

極東アジアの平和を脅かしているのは、他国の領土、領海もお構いなしに侵出を続ける中国であることだけは、忘れてはならない。