『日本』令和7年正月号

正月号巻頭言 「田中子復を送るの序」(抄) 解説

これは安政六年(一八五九)、高杉晋作が昌平坂学問所にある時、同輩の久留米藩士田中子し 復ふくが各地を周遊して帰郷するに際して、送別として贈つた一文の一節である。

晋作は安政二年に上海、北京を訪れ、英国などによる侵略の姿を眼前にし、我が国の対処の在り方を真剣に考へ、到達した結論がこの一語である。晋作はこの一語を以て、各地の有志、又久留米藩主に説くことを要請し、子復も同意したのである。

明治維新は、「天下の人心を一いつにする」為に心骨を労して努力した人々の働きにより実現され、わが国は独立を維持することが出来たのである。

翻(ひるがえ)つて今日、国際情勢が混沌とする中、我が国では価値観の多様化が強調され、人心は千路に分裂し、国家百年の計を立てるすべもないのが現状である。人心を一にする為には如何にすべきか。与へられた課題は大きい。

(堀井純二)