9- 一般財団法人 日本学協会
                       

『日本』令和4年3月号

 任期延長で独裁化進める中露トップ

 宮地 忍 /元名古屋文理大学教授


多少の混乱もあった北京冬季五輪も何とか終わり、冬季パラリンピックが始まる。習近平国家主席(68)の次の課題は、何であろう。今秋に開かれる党大会での党総書記職の任期延長ではないか。在任十年を、さらに五年延ばす。そして、国家主席の職も。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(69)も、任期延長を目指している。終身任期の北朝鮮は、ミサイルを連射する。五年任期を一回限りの韓国大統領にも困ったものではあるが、それぞれの独裁的任期を守るためには、波乱と緊張を求める。


任期延長に改憲の習国家主席

中国共産党の最高指導部は、これまで、五年ごとの党大会の時点で「六十八歳以上は引退」との不文律を慣行としていた。行政の最高指導者「国家主席」は、憲法で「二期を超え連続して就任することはできない」(七九条三項)と定められていた。習近平主席は、二〇一二年に党中央委員会の総書記、中央軍事委員会主席、二〇一三年に国家主席に就任している。

習氏はまず、秋の党大会で、総書記の定年慣行を破ろうとしている。その前段として、二〇一八年三月の全国人民代表大会(全人代。国会相当)で憲法を改正、国家主席にかかわる五年二期の制約部分を削除させた。六十九歳で迎える党大会を定年慣行の無視で乗り越え、国家主席として二期十年の任期を終える来年の全人代では、任期の制約なしに次の五年、十年……と歩み続けると観測されている。憲法改正では、「毛沢東思想、鄧小平理論…に導かれ」との前文に、「習近平の思想」も加筆させた。

一党独裁を基本とする共産党の国家でも、集団的な「党の独裁」ではなく、個人の独裁に進むことは歴史の教えるところか。個人独裁に求心力を持たせるためには、周辺国との緊張、時に軍事力の行使も必要になる。習氏が総書記、国家主席に就任してからの南シナ海での岩礁領土化、尖閣諸島での継続的な領海侵犯、台湾への軍事行動を示唆する活動に、それが現れている。国内的には、新疆ウイグルやチベット、南モンゴルでの周辺民族の漢族化が、多数派の漢族を背景に進められている。新型コロナウイルスの対策も、都市封鎖の「ゼロコロナ」で強権と安定を演じる。


プーチン大統領も任期延長へ改憲

憲法改正による任期延長の準備は、プーチン大統領のロシアでも行われている。ロシアの大統領は、「任期四年、連続二期まで」とされていた。プーチン氏は、首相を経て、二〇〇〇年五月に大統領に初当選。当時は一期四年の任期で、二〇〇八年五月まで二期の大統領を務めた。この後、任期切れで四年間は首相職に退いたが、二〇一二年五月に大統領として再登板。この時から一任期六年とされたが、通算四期目の再来年二〇二四年五月には、再び退かなくてはならなかった。

ところが、一昨年七月に憲法を改正。「連続二期」を「通算二期」とした上で、これまでの任期は数えないこととした。二〇二四年五月の大統領選挙では、プーチン氏も新たな「通算二期、十二年」に向け、五選を目指すことを可能にした。新たな二期(通算六期)の満了は、八十三歳のこととなる。

プーチン氏の与党は、共産党ではなく統一ロシア(党)というが、長期政権の求心力を維持するためには強権的にならざるをえない。二〇一四年には、ウクライナのクリミア半島に侵攻・併合、今またウクライナとの国境に、十万人のロシア軍を集結。侵攻か外交かとの瀬戸際状態を作り出している。かつてのソ連圏の属国がNATO(北大西洋条約機構)に加盟することは認められないとしているが、欧米諸国はこの主張を受け入れない。各国のウクライナへの武器援助、米国の周辺国への兵員増派などで、緊張が高まっている。


異形の北朝鮮、揺れ動く韓国

主要国とは言えないが、独裁諸国の中でも北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は際立っている。世襲三代目の金正恩総書記(年齢不詳、37~38歳か)は、二〇一一年の父・金正日総書記の死後、その側近や叔父までを粛清、処刑。異母兄も暗殺して、独裁制の継承を確立した。

核実験や長距離弾道ミサイルの開発に挑み、米朝会談でトランプ大統領(当時)を煙に巻いたが、その後も中・短距離ミサイルの実験を繰り返し、今年一月には七回十一発もの発射実験を行っている。核実験、長距離弾道ミサイル試射を再開する可能性もあると観測されている。新型コロナウイルスの感染を恐れた国境封鎖で、食糧危機の状況にあるとされるが、金氏の演説シーンなど、会場の人々が機械仕掛けのように拍手する光景は、「異形の国」と言わざるをえない。

「異形の国」の南。韓国では、この三月九日に大統領選挙が行われる。韓国の場合、大統領の任期は一期五年限りとされている。文在寅現大統領の後継を目指す左派の李在明前京畿道知事と、保守派の尹錫悦前検事総長が僅差で当落を争う。政策よりも、親族のスキャンダル暴露合戦になったようだ。権力者が周囲の便宜を図り、退任後に訴追され、自殺に追い込まれたりするのが通例とされる韓国も、違った意味の独裁制と言える。

求心力を作る方便として、「反日」を使う。韓国にも理性的に考える人も多いが、国民の多くは「反日」の旗には抗し切れない。文氏が大統領の五年間、慰安婦問題の日韓合意破棄に始まり、徴用工などに関する日本企業への賠償判決、旭日旗を掲揚する自衛艦の入港拒否、自衛隊機へのレーダー照射などで、日韓関係は最悪の状態にあるとされる。


「強制労働説」に同調の日本共産党

最近では、日本による「佐渡島の金山」の世界文化遺産への推薦に対し、韓国政府は作業部会まで作り阻止の構えでいる。「佐渡の金山では、朝鮮人の強制連行が行われた。その説明抜きでの世界文化遺産は認められない」との主張である。日本政府は、世界文化遺産への登録を推薦したのは、江戸時代まで世界有数の金山であったからだとする。朝鮮半島出身の労働者は、大多数が就職組。終戦間際の徴用工がいたとしても、徴用は内地国民を中心にした戦時徴用だった。国際法では、戦時徴用は「強制労働」とは見なさない。

これに関して、日本共産党などは、機関紙「しんぶん赤旗」の一面トップに、「日本政府は、戦時の朝鮮人強制労働の事実を認めるべきである」との志位和夫委員長の談話を掲載、反日に同調している。その志位氏(67)の委員長在任も、既に二十一年になる。志位氏の委員長就任は、平成十二年(二〇〇〇)十一月であった。奇しくもプーチン大統領の一期目就任と同じ年だった。少数野党とはいえ、書記局長の十年を加えると、三十一年になる。政権に近づけば、中露の教訓からどうなるのか。共産党を加えた立憲民主党の選挙共闘に、「連合」が拒否反応を示すのは当然のことと思える。

中露の独裁強化、北朝鮮の暴走、韓国の混迷。これに日本は、どう対応すべきか。北朝鮮を除き、経済的にはそれぞれ重要な関係にある。この面では静かな協力を維持しつつ、独裁維持のための主張、緊張醸成には毅然とした姿勢を貫き、各国内の人権問題などにも発言を続ける。やがては、「中国の春」「ロシアの春」などが訪れる。その混乱に適切に介入、懸案の一括処理を構想しておくべきだろう。