『日本』令和7年3月号

三月号巻頭言 「人能く道を弘む」 解説
水戸藩々校「弘道館記」の冒頭二節である。弘道館創設の目標、構想、経緯、規模、教育内容などは、先人の研究、詳述して積んで山の如くある。今ここでは、これらには触れない。ただ、「館記」は九代藩主烈公(斉なり昭あき)の起稿になつてゐるが、草案は藤田東湖先生によることのみ記しておく。
「館記」は『論語』『中庸』など、儒学の経典を引いて起草されたものであるが、第二節目から、国語風に読んでみる。「道義、道徳といふものは、天下の大道、大原則であり、全ての人々が一時たりとも離れることが出来ないものである」。第一節に戻り、「従つて、道義、道徳といふものは抽象的な概念ではなく、我々が日々努力、精進して実現させるものである」。
近年、生成AIなどの発展により、「道義」「道徳」を入力すれば、次から次へと美文が並ぶ。しかし、それらはあくまでも言葉だけのものであり、人の魂、品性が見られない。日々の雑務に追はれ、道を究める努力を忘れてはゐないか。心したい一文である。
(久野勝弥)